弊所の商標ニュースレターの頁をご覧になっていただきまして誠にありがとうございました。有益な情報がご提供できれば幸です。
また、弊所におきましても、このニュースレターを通じて、皆様とご一緒に勉強させて頂ければ幸せと考えております。
商標は登録を受けてもある一定期間(継続して3年以上)使用していなければ、不使用取消審判(商標法第50条)により登録を取り消されることがあることは、既にご存知のことと思います。しかし、自らは使用していると考えていても、実際に審判になった場合に指定商品(役務)についての登録商標の使用ではないと認定されて取消されてしまうことも多々あります。
そこで、どのような態様で使用した場合に登録商標の使用と認められ又は認められないのかについて、何回かに亘って、いくつかの取消審判例を取り上げてご説明して行きたいと考えます。どうぞしばらくの間おつきあい下さい。
1. 取消2004-31562(登録第4418650号商標の登録取消審判事件)(1)本件登録商標:
商標「Chemical」(標準文字で横書きしたもの)
指定商品「第9類 電子応用機械器具及びその部品」(指定商品は他にもあるが、取消請求されていないので省略する)
(2)登録商標の使用の態様
商品カタログに使用していた商標は 「Chemical Process Industry/1」なるものであった。
そして、その上部に下線を施した「化学プロセス産業向け基幹業務パッケージソフト」の文字が記載されていた。
(3)被請求人(商標権者)の答弁
被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を化学業向け基幹業務のソフトウェアプログラムに係る商標として使用している事実があるとして、上記の登録商標の使用態様が記載されているカタログを提出した。そして、該カタログには、表紙の中央部に「Chemical」の文字が「Process」、「Industry」、「/」及び「1」の単語と並べて表示されているが、各単語の間にはスペースがあり、それぞれ分離して認識される構成となっていることから、「Chemical」の部分は、この部分で独自に自他商品の識別標識として機能していると主張しました。
(4)審判における判断
審判においては、次のように、該商標の使用は自他商品の識別標識としての機能を発揮していないとして、該商標の登録を取り消しました。
即ち、使用標章「Chemical Process Industry/1」は、その上部に下線を施した「化学プロセス産業向け基幹業務パッケージソフト」の文字が存することをあわせ勘案すれば、該「Chemical」の文字は、全体に「化学プロセス産業向けのパッケージソフト」の意味合いを表す記述的な文字の一部を構成しているに過ぎないものであって、これに接する取引者、需要者は、これをとらえて自他商品の識別機能を果たすものであるとは認識し得ないものであると判断しました。
2. 取消2004-30530(登録第1874788号商標の登録取消審判事件)(1)本件登録商標:
商標「貴腐」(文字を横書きしたもの)
指定商品「第30類 菓子,パン」
(2)登録商標の使用の態様
(i)第1の使用態様:商品の包装紙に使用されていた商標は、 上段から「NOBLE ROT」、「WINE JELLY」の各文字を金色で横書きし、 その下に「SAUTERNES」の文字を白色で横書きし、 その下に「貴腐ワインゼリー」の文字を青色で一連に横書きし、 更にその下に「ビルの図形」、「WAKO」の文字を白色で表したものであった。
(ii)第2の使用態様:商品のカタログに使用されていた商標は、 個別の商品9個を包装箱に収納した状態の写真が掲載され、その商品説明として、「貴腐ワインゼリー(9個ワイン・ブランデー使用)」の記載とともに、「マスカットゼリー」、「はちみつゼリー」、「びわゼリー」、「完熟白桃ゼリー」及び「“かつぬま”ワインゼリー」が掲載されていた。 また、「Summer Gift Catalog 2003 価格リスト」として、「貴腐ワインゼリー」が、「ティーバッグ」をはじめ、上記「はちみつゼリー」、「“かつぬま”ワインゼリー」、「完熟白桃ゼリー」や「果実ゼリー」等と併記して表示されていた。
(3)被請求人(商標権者)の答弁
被請求人は、上記の商品の包装紙及びカタログのように登録商標が使用されていると主張しました。
(4)審判における判断
審判においては、次のように、該商標の使用は自他商品の識別標識としての機能を発揮していないとして、該商標の登録を取り消しました。
まず、「貴腐」の文言について、辞典等を参照して、「貴腐」の語は、「ぶどう果の変化。ぶどうの収穫時期前にボトリティス・シネレア菌がぶどう果に付着して、ぶどう果の表皮がやぶれ、ぶどう果の水分がそこから蒸発して糖度の高いぶどう果になる。」ものであり、該貴腐ぶどうを使用したワインが製造されていることは明らかであると認定しました。
そして、第1の使用態様については、商品「ゼリー」の包装紙上に青色で、かつ、同一の書体をもって同一の大きさ、同一の間隔で「貴腐ワインゼリー」と書され、外観上一体的に看取されるとしました。
また、第2の使用態様については、「貴腐ワインゼリー」の表示は、「マスカットゼリー」、「はちみつゼリー」、「びわゼリー」、「完熟白桃ゼリー」、「“かつぬま”ワインゼリー」と共に並列的に掲載されており、「マスカットゼリー」、「はちみつゼリー」、「びわゼリー」、「完熟白桃ゼリー」、「“かつぬま”ワインゼリー」の表示中、「マスカット」、「はちみつ」、「びわ」、「完熟白桃」、「“かつぬま”ワイン」の文字部分は、商品の原材料表示部分であり、また、「ゼリー」の文字部分は、商品の普通名称であることからすると、「貴腐ワインゼリー」の表示も同様に、商品の原材料表示部分である「貴腐ワイン」と商品の普通名称である「ゼリー」とを結合したものと理解され、これに前記「貴腐」の語に関する認定事実を併せ考えると、本件使用に係る「貴腐ワインゼリー」の文字に接する需要者は、全体として「貴腐ワインを使用したゼリー」の意味を表したものと理解すると判断しました。
3. 取消2007-300445(登録第867405号商標の登録取消審判事件)(1)本件登録商標
商標「サワヤカ」(カタカナ文字で横書にしたもの)
指定商品「第4類 せっけん類」
(2)登録商標の使用の態様
(i)第1の使用態様:商品カタログに使用していた商標は 「ホームケア」の項目において、「パワーズ」、「香りクリーナー」、「おふろ用」と紹介され、その説明書きには、「ピーチのさわやかな香りが、お掃除中や洗い上がりのバスルームに広がります。」と記載されていた。
(ii) 第2の使用態様:商品の包装容器に使用されていた商標は、 上段から「香りで美しく/お風呂そうじ」、「パワー」の各文字、
その下に、小さく「さわやか」の文字、
その下に、大きく「ピーチ」の文字、
その下に、小さく「の」の文字、
更にその下に、「香りクリーナー」、「おふろ用」などの文字が記載されたものであった。
(3)被請求人(商標権者)の答弁
被請求人は、請求人が「石鹸やシャンプーで身体や頭を洗えば、すっきりとし、『さわやか』な気分になることは誰もが実感することである。」と主張するが、この主張では、わざわざ形容詞を連呼し「すっきりとし」、「さわやか」な気分になると述べているが、通常、「すっきりする」あるいは「さっぱりする」であり、「さわやかになる」とは言わない。また、請求人が「『さわやか』の語と『香り』との関係で品質表示であること」を主張しているが、本件商品は「せっけん類」であるから、請求人の主張はそのまま本件指定商品に当てはまらない。また、商品における表示は「さわやか」が上段に、その下に「ピーチ」であり、商品の説明書き部分(上記の第1の使用態様)とは使用方法が相違するから、説明書きをもって、直ちに、商品における表示を品質表示と結論することは誤りであると主張しました。
(4)審判における判断
審判においては、次のように、該商標の使用は自他商品の識別標識としての機能を発揮していないとして、該商標の登録を取り消しました。
まず、使用態様1及び2から、「香りクリーナー」、「ピーチのさわやかな香りが、お掃除中や洗い上がりのバスルームに広がります。」、「香りで美しく/お風呂そうじ」などの文字から、これに接する需要者は、“香り”を売り物にしたクリーナー(ふろ用洗浄剤)であると直ちに認識されると認定しました。
また、使用態様1に基づいて、「さわやか」の語は、「香り」の語と密接に結びついて、「すがすがしく快い香り」などの意味を表すものとして、日常的に使用されているものであって、せっけん類を取り扱う分野においてのみ例外であると認めるに足る証拠はないとしました。
そして、使用態様1及び2における「さわやか」の文字部分は、需要者をして、香りの主体である「ピーチの香り」が“さわやか”であることの意味をもって、単に「ピーチの香り」を修飾する品質表示語であると理解させるものであると判断しました。
検討上記3件の取消審判は、いずれもその使用が自他商品識別標識としての機能を発揮していないとして取り消された例です。
第1の審判例は、その登録商標が「Chemical」である場合に、それを一部に含めた態様で「Chemical Process Industry/1」として使用していたものです。使用していた商標は明らかに「化学プロセス産業」の意味を有しています。加えて、「化学プロセス産業向け基幹業務パッケージソフト」の文字が併記されていたことから、この使用の態様はいわゆる記述的な使用であると判断されたと考えます。このような登録商標の使用は、自他商品識別標識としての使用とは認められず、商標の識別標識としての機能を発揮していないと考えます。登録商標の使用と認められるためには、少なくとも「Chemical」の文字を単独で使用しておく必要があったと考えます。そのように使用しておけば、別途、「Chemical Process Industry/1」及び「化学プロセス産業向け基幹業務パッケージソフト」の文字が併記されていても登録商標の使用と認められたのではないでしょうか。
第2の審判例は、その登録商標が「貴腐」である場合に、それを一部に含めた態様で「貴腐ワインゼリー」として使用していたものです。ここで、「貴腐」には上記特定の意味があること、加えて、「マスカットゼリー」、「はちみつゼリー」、「びわゼリー」、「完熟白桃ゼリー」、「“かつぬま”ワインゼリー」などと並列的に記載されて使用されていたことから、記述的な使用であると判断されたと考えます。この例も上記と同様に「貴腐」単独で使用する必要があったと考えます。
また、「Chemical Process Industry/1」及び「貴腐ワインゼリー」のような上記使用の態様では、たとえ、この態様が単独で使用されていたとしても、取消しを免れることはできなかったのではないでしょうか。
第3の審判例は、その登録商標が「サワヤカ」であり、指定商品が「第4類 せっけん類」なるものです。上記使用の態様では、「さわやか」の文字部分は、「ピーチの香り」のさわやかさを直ちに連想させるものであると判断されても致し方ないと考えます。また、そもそも、指定商品「せっけん類」に商標「サワヤカ」が登録されたこと自体疑問に思われます。指定商品との関係で、さわやかな香りの石鹸、さわやかな肌触りの石鹸等を直ちに連想させ、商標法第3条第1項第3号により登録を受けられない商標と思われます。
以上の3件の審判例を見ますと、このような登録商標は単独で使用することが安全であると考えます。特に、上記のように登録商標と他の文字との組み合わせにより、商品との関係で一定の意味を連想させるような使用はいわゆる記述的使用と判断されて取消される可能性が大であるということです。従って、少なくともこのような使用をする場合には、登録商標の単独使用と併用して使用するか、又は、このような使用を避ける必要があるのではないかと考えます。
今回は、いわゆる記述的使用と判断されて取消された審判例のみを紹介いたしました。次回は、同様な場合に取消審判の請求が認められなかった例をいくつか取り上げてみます。
なお、上記審判例は特許電子図書館(IPDL)において詳細を確認することができます。IPDLの「審判検索」から「審決公報DB」に入り、上記の審判番号を入力すれば確認することができます。
以 上