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商標ニュースレター   No.11

商標は登録を受けても、ある一定期間(継続して3年以上)使用していなければ、不使用取消審判(商標法第50条)により登録を取り消されることがあります。但し、使用している商標は、必ずしも登録を受けた商標と同一である必要はありません。この点に関しまして、商標法第50条では、(i)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、(ii)平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、(iii)外観において同視される図形からなる商標等を社会通念上同一と認められる商標として挙げており、これらの社会通念上同一と認められる商標を使用していた場合においても、登録商標の使用とみなすことにしています。しかし、社会通念上同一と認められる商標の意味が、必ずしも明確であるとは言えないものもあります。

登録商標を多少変更して使用することは、通常、行われていることです。しかし、その変更使用により、登録商標の使用ではないとされて、不使用取消審判により登録が取り消されてしまったのでは大変です。今回は、上記のうち(i)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標について検討してみることにします。まず、審判便覧には、以下のように規定されています(紙面の都合上、前後しています。)。

そこで、この類型に当てはまるいくつかの審決例を挙げてみることにします。




1. 取消2003-30884(登録第4243939号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

「DAN」の標準文字を書してなり、第9類「電気アイロン,電気式ヘアカラー,電気ブザー(その他省略)」を指定商品とするものである。*

審判便覧の記載

*(2)商標権者の使用商標は下記の通りである。

(3)審判における判断

使用商標は、多少図案化されているとはいえ、欧文字の「DAN」を表したと認識することができるばかりでなく、使用商標の下に表示された「DANの<ワイヤレス・レスポンサー>は、人と人の関係を・・・」なる記載があることからしても、使用商標に接する需要者が「DAN」の文字以外の他の文字を想起するものとは、考え難いところである。

そうすると、使用商標は、本件商標と外観において多少差異を有するとしても、「ダン」の称呼及び「男の名」の観念において、同一のものというべきである。

従って、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の範囲内の商標と言うのが相当である。




2. 取消2004-30723(登録第4217980号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

下記の構成よりなり、第18類「(省略)」及び第25類「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽(その他省略)」を指定商品とするものである。

(2)商標権者の提出した証拠には、「2001.7.31/カタログ有効期限」と表示されており、「HOP LUN」と一連に横書きされた商標のもとに、「ワイヤーブラ&ショーツセット」の商品表示がなされ、商品説明と共に商品の写真が掲載されている。

(3)審判における判断

商標権者の提出した証拠には、本件商標と社会通念上同一と認められる「HOP LUN」と一連に横書きされた商標を付した商品「ワイヤーブラ&ショーツセット」を掲載して、少なくとも、本件審判の請求の登録日前3年以内に、該証拠であるカタログを取引に供していたものと認めることができる。

なお、請求人は、該証拠であるカタログには、本件商標と同一又は社会通念上同一と認められる商標は一切使用されていない旨主張する。

本件商標は、上段に表された欧文字「H」と「P」とに挟まれた図形部分は、渦巻き状に表現されているが、近年、構成文字の一部をデザイン化したり、図形をもって表現することが少なくない実情にあることから見れば、前記図形部分は、左右に配された欧文字「H」と「P」と相まって欧文字「O」を表したものと容易に看取し得るものである。

そうとすれば、本件商標は、「HOP」「LUN」の各文字を上下二段に纏まりよく一体的に表されたものであって、これより「ホップラン」の一連の称呼をもって取引に資されるものとみるのが相当である。

一方、該証拠であるカタログにおいて使用されている商標は、通常の書体からなる「HOP LUN」の欧文字を一連に横書きしたものであるから、請求人が主張しているように、本件商標と同一の商標が使用されていたとは言えない。

しかし、商標の使用は、商標を付する対象に応じて、適宜変更を加えて使用されるのがむしろ通常であり、本件の場合も、上記の如く、その表現方法に若干の差異があるとしても、本件商標も使用に係る商標も、いずれも「HOP」と「LUN」からなるものと認識され、「ホップラン」という同一の称呼を生ずるものと認められるから、商標の持つ出所表示機能に差異はなく、この程度の変更がなされているとしても、社会通念上同一と認識し得る範囲内の商標の使用と認めても差し支えないというべきである。




3. 取消2003-31645(登録第4028840号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

下記の構成よりなり、第16類「印刷物,写真,写真立て,遊戯用カード」を指定商品とするものである。

(2)商標権者の使用商標は下記の通りである。

(3)審判における判断

請求人は、被請求人の使用商標は本件商標と社会通念上同一のものとは言えない旨主張している。

確かに、被請求人の使用商標は、本件の商標と同一のものと言うことはできないとしても、商標の使用は、商標を付する対象に応じて、適宜に変更を加えて使用されるのがむしろ通常であり、本件の場合も、「WRC」の文字の表現方法や「CATCH the」の文字と「WRC」の文字との位置関係等が本件商標と若干異なるとしても、そのことにより、商標の印象に格別の差異を感じさせるものとは言えず、また、使用に係る商標からは、本件商標から生ずる「キャッチザダブリュアールシー」と同一の称呼を生ずるものと認められるから、この程度の変更がなされているとしても、社会通念上同一と認識し得る範囲内の商標と認めて差し支えないものと言うべきである。




4. 取消2000-31378(登録第3358158号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

下記の構成よりなり、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とするものである。

(2)商標権者の提出した証拠の写真は、運動靴と認められる靴と、その個包装箱とを写したものであり、その靴の中底及び個包装箱には「Good」及び「Enough」の各欧文字が半角程度の間隙を介し横一連に付されている。

(3)審判における判断

本件商標の構成は、上記のように「Good」及び「Enough」の各文字を上下二段とし、その頭文字部分についてはモノグラム風に表したものであって、「Good Enough」と横一連に表して使用する商標とは、その構成態様を異にするものであるとしても、商取引の実際において登録商標が配列又は配置その他の態様について少なからず変更を加えて使用されることは普通に行われているところである。

そして、両者のかかる構成において商品識別標識として機能する要素は、我国において馴染まれた平易な英語と言える、「グッド」と読まれ「良い」の意味を有する「Good」の文字と、「イナフ」と読まれ「じゅうぶんな」の意味を有する「Enough」の文字との結合によるものと認め得るところであり、本件商標は、やや図案化されているとはいえ、該結合文字以外の商品識別標識として機能する点は見出せない。

してみれば、両者は、該結合文字により構成される商標として認識し把握され、これより生ずる「グッドイナフ」の称呼をもって取引に資されるものとみるのが商取引の実際に照らして相当である。

そうすると、商標本来の機能である自他商品識別標識としての実質的な差異はなく、社会通念上同一と認められる商標であるといわなければならない。




5. 取消H11-30687(登録第2641655号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

下記の構成よりなり、第4類「せっけん類(薬剤に属するものを除く),歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く),香料類」を指定商品とするものである。

(2)商標権者の使用商標は下記の通りである。

(3)審判における判断

使用商標A及びBの構成中「ショッピング」の文字は「買い物」を意味する語であって、自他商品の識別機能がないことから、需要者は、使用商標A及びBの構成中の「TBS」の文字部分によって被請求人の販売する商品であると認識して商品を購入するものであり、この文字部分(以下「使用TBS」という)が商標としての識別機能を果たすものといえる。

そして、本件商標と「使用TBS」とを比較すると、その外観において違いはあるが、本件商標は、「TBS」の略称で知られている被請求人が自己のマークとして一時期使用していたこともあり、かつ、いまだに欧文字の「TBS」をデザインしたものであろうとみられる外観を呈しているうえ、これより生ずると認められる「ティービーエス」の称呼及び被請求人を示すマークとして認識されると認められるその観念において「使用TBS」のそれと共通することは明らかである。

そうすると、使用商標A及びBは、本件商標と社会通念上同一の商標と認めるのが相当である。




検討

1. 取消2003-30884においては、使用商標は、登録商標とは同一ではなく、標準文字である登録商標をロゴ化したものです。しかし、使用の態様等から見て、使用商標は、登録商標と称呼及び観念において同一であるから、両者は社会通念上同一の商標であると判断しています。このようにロゴ化しても、「DAN」の文字が十分読み取れる程度のものであれば、登録商標の使用と認められると判断できます。


2. 取消2004-30723においては、登録商標の欧文字「H」と「P」とに挟まれた図形部分は、渦巻き状となっているが、左右にある欧文字「H」と「P」との関係から欧文字「O」を表したものと容易に認識し得ると判断し、これから「ホップラン」の一連の称呼が生じ、それは、使用商標の称呼と同一であると判断しています。このように、図形化した文字であっても、その文字が何であるかが容易に認識できる程度の図形化であれば、登録商標の使用と認められ得ると判断できます。


3. 取消2003-31645においては、使用商標は、登録商標にかなりの図案化を施している。「WRC」の文字の大きさを変え、そして、斜め上方に書き揃え、「CATCH the」の位置も「WRC」の文字上に重なるように配列されている。しかし、使用商標からは「キャッチザダブリュアールシー」の称呼が生ずることは明らかである。この程度の図案化であれば、社会通念上同一の商標と認定されると考えてよいであろう。


4. 取消2000-31378においては、登録商標は、その頭文字部分がモノグラム風に表されてはいるが、全体としては、印象に格別の差異はなく、「グッドイナフ」の称呼が生ずると判断されている。従って、登録商標のこの程度の図案化は、「Good Enough」と横一連に表して使用する商標と社会通念上同一であると判断されると考えられる。


5. 取消H11-30687において、使用商標A及びBの「ショッピング」の文字は識別力がなく、識別力のある部分は「TBS」の文字部分である。これと登録商標を比較して、社会通念上同一と判断されている。この登録商標程度の図案化では、依然として「ティービーエス」の称呼が生ずることは明らかである。


以上をまとめると、対象となる商標相互間において、多少の図案化、ロゴ化を施しても、明らかに同一の称呼が生ずると認められるなら、相互間の使用は登録商標の使用と認められる可能性が高いと考えられます。


以上