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商標ニュースレター   No.12

今回も、前回と同様に、登録商標の使用における社会通念上同一の商標について、いくつかの審決例を挙げてみることにします。前回は、書体の変更についてご説明致しましたが、今回は、文字の種類を変更した場合についてご説明致します。これに関しまして、商標法第50条においては、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標は登録商標と同一であるとしています。




1. 取消2001-30335(登録第2540650号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

「エンゼルクラブ」の片仮名文字を横書きしてなり、第25類「紙類、文房具類」を指定商品とするものである。

(2)商標権者は、「ANGEL CLUB」の文字よりなる商標を、グリーティングカード、ミニカード、ブックマーカーに付して使用していた。

*(2)商標権者の使用商標は下記の通りである。

(3)審判おける判断

商標法第50条第1項括弧書きにおいては、「・・・片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標・・・その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」を使用していることを、被請求人が証明しなければならない旨規定している。

本件についてみると、本件商標は「エンゼルクラブ」の片仮名文字を横書きしてなるところ、使用商標は「ANGEL CLUB」のローマ字よりなるものであり、本件商標と使用商標は、「エンゼルクラブ」の称呼、「天使のクラブ、天使の同好会」の観念において同一であり、社会通念上同一の商標と認められる。

請求人は、「本件商標の使用の形態は、円形内に「C」の文字表示とこれに続けて「ANGEL CLUB・JAPAN」の文字と「Printed by Fuji Planning Co. ltd Phone 06−304−6201」の文字とが並記されてなるところ、このような表示に接した取引者、需要者は「ANGEL CLUB」の文字をもって商標表示と認識、理解せず、円形内に「C」の文字マークの存在により、このカードやブックマーカーに使用されているデザインがそのカード等販売者の著作権を示すものと理解し、商標使用の事実を示す証拠としては不適である」旨主張する。

しかし、「Printed by Fuji Planning Co. ltd Phone 06−304−6201」は、識別力を有しないものである。また、円形内に「C」の文字表示は記号であり、識別力がないか、又は極めて弱いものと言うべきであり、「JAPAN」は「日本」を表す英語で、産地等表示であり、自他商品識別標識として機能しない。

よって、請求人の主張は理由がない。




2. 取消2001-30539(登録第2342956号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

下記の構成よりなり、第31類「みそ」を指定商品とするものである。

(2) 商標権者は、「健康」の文字より成る商標及び本件商標中の図形と同一の商標を使用して商品「みそ」を製造、販売していた。また、U株式会社は、被請求人の同意を得て被請求人より仕入れた「みそ」に「ケンコーみそ」の商標を使用していた。

(3)審判おける判断

上記使用に係る「健康」の文字より成る商標は、本件商標中の「けんこう」の文字と同一の称呼及び観念を生ずるものであり、また、同じく「ケンコーみそ」の商標も、その要部である「ケンコー」の文字部分より生ずる称呼及び観念が本件商標中の「けんこう」の文字のそれと実質的に同一と言うことができる。




3. 平成9年審判第15182号(登録第2677122号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

「LIFECENTER」の欧文字を横書きしてなり、第24類「重量等のデータをビデオ映像画面に表示する重量挙げ式運動具、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。

(2)商標権者は、「ライフセンター」の文字よりなる商標を、本件商標の指定商品に係る「重量等のデータをビデオ映像画面に表示する重量挙げ式運動具」に使用していた。

(3)審判における判断

本件商標は、「LIFECENTER」の文字よりなるものであって、特定の観念を有しない造語よりなるものと認められるから、その表音の使用をもって社会通念上同一のものと言うことはできない。




4. 平成11年審判第31349号(登録第2361321号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

「COMPATH」の欧文字を書してなり、第10類「医療機械器具、その部品及び付属品」(その他は省略)を指定商品とするものである。

(2)商標権者は、「コンパス」の片仮名文字よりなる商標を、本件商標の指定商品に係る「トレーニングマシーン」等に使用していた。

(3)審判における判断

本件商標と、該「コンパス」の商標を比較するに、両者は「コンパス」の称呼を共通にするものである。

しかし、「コンパス」の称呼からは、製図道具の「COMPASS」の語を想起するというのが相当であり、造語と言える「COMPATH」の文字を想起するとはいい難いものである。

してみれば、本件商標と、商標権者の使用に係る商標とは、観念同一のものと言うことはできないし、観念において異なるものであるから、両者を、社会通念上同一のものであるとすることができない。

そうすると、商標本来の機能である自他商品識別標識としての実質的な差異はなく、社会通念上同一と認められる商標であるといわなければならない。




5. 取消2000-30778(登録第2451515号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

下記の構成よりなり、第17類「被服(運動用特殊被覆を除く。)」(その他は省略)を指定商品とするものである。

(2) 商標権者は、指定商品の被服の範疇に含まれる商品に下記の商標を使用していた。

(3)審判における判断

本件商標は、上記(1)の通り「ワープ」の文字中の「ー」の上部において交差する円状様のものを描き、その左側の円弧が「ワ」の左上部を白抜きする如く、また、右側の円弧は「プ」の「゜」の上部で止まる様に描かれた特徴を有する構成から成るものである。他方、使用商標は、上記(2)の通り「warp」の文字を中央に大きく書し、その上部に「akatesnowsurfsoundstyle」の文字を小さく書し、下部に「magazine」及び「Japan」の文字を使用してなるものである。

そうすると、両商標は、「ワープ」と「warp」の文字部分を単に片仮名文字及びローマ字表示をもって相互に変換したものではなく、全体としてその外観を著しく変更するものであって、両者は社会通念上同一と認められる範囲を逸脱した商標であるとみるのが相当である。




検討

1. 取消2001-30335及び2. 取消2001-30539におきましては、いずれも使用商標は登録商標と同一と認められています。前者は、「エンゼルクラブ」と「ANGEL CLUB」は、相互に称呼及び観念が同一と認定されています。「ANGEL CLUB」の前後に他の文字が記載されていますが、これらには識別力がないとされています。このように識別力がない文字等との組み合わせであれば、大きな問題にはなりませんが、他の文字等との結合使用に関しましては注意が必要となります。後者においても、「健康」と「けんこう」は、相互に称呼及び観念が同一と認定されています。商標権者はこの文字に加えて、登録商標中の図形と同一の商標をも使用しておりましたので、このような判断になったと考えます。図形を使用していなかったら、別の結果になったと考えます。


このように、登録商標と使用商標との関係において、相互に同一の称呼及び観念しか生じない場合には、両者は社会通念上同一と言うことになると考えます。少なくとも一方の商標から、別の称呼又は別の観念が生ずる場合には、両者は社会通念上同一にならない可能性がありますので注意が必要と考えます。


3.平成9年審判第15182号におきましては、登録商標「LIFECENTER」であるところ、商標権者は「ライフセンター」を使用していました。この場合は、称呼は相互に一対一で同一ではありますが、これらの文字からは特定の観念が生じないので観念同一とは言えないとしています。観念を生じない商標に相互間においては、たとえ両者の称呼が同一であっても、観念は同一ではないと判断され、両者は社会通念上同一とは言えないとされています。このように、特定の観念を有しない商標を使用する際には、十分に注意する必要があると言えます。


4. 平成11年審判第31349号におきましては、登録商標「COMPATH」には特定の観念がないことから、この場合にも、「コンパス」の使用に関して、称呼は相互に一対一で同一ではあるが、観念同一とは言えないとしています。従いまして、使用商標の称呼から、如何なる英語の綴りが生じるかをも、十分に考慮して使用する必要があります。安易に使用していると、この審判例のように不使用となってしまうこともあり得ます。


5. 取消2000-30778におきましては、そもそも、片仮名文字表示とローマ字表示とを相互に変換したものではないと認定されています。もともと、登録商標はかなり片仮名文字を変形したものであることから、このような場合には、社会通念上同一と認められない可能性が高いということと考えます。この例のような場合は、明らかに無理があると考えられますので、そのような使用は避ける必要があります。


以上