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商標ニュースレター   No.3

今回は、二段書き商標、例えば、英語と仮名、漢字とローマ字、漢字と仮名を二段に記載した商標に関して、その称呼がどのように取り扱われるかに関して争いのあった審決例をいくつかご紹介致します。




1. 不服2000-11335(商願H10-47813号の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標:

「kanon」の欧文字と「花音」の漢字とを上下二段に書したものであり、指定商品を第30類「すし,べんとう」とするものである。

(2)原査定の引用商標

本願の拒絶理由に引用された登録商標は下記の4件である。

(i)登録第1989391号(引用商標1):

「カノン」の片仮名文字を横書きしたものであり、指定商品を第32類「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品(他の類に属するものを除く)」とするものである。

(ii)登録第2159288号(引用商標2):

「KANON」の欧文字を横書きしたものであり、指定商品を第32類「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品(他の類に属するものを除く)」とするものである。

(iii)登録第4084985号(引用商標3):

「CANON」の欧文字と「カノン」の片仮名文字とを上下二段に書したものであり、指定商品を第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,サントイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」とするものである。

(iv)登録第4330324号(引用商標4):

「カノン」の片仮名文字と「KANON」の欧文字とを上下二段に書したものであり、指定商品を第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」とするものである。

(3)審判における判断

本願商標は、「kanon」の欧文字と「花音」の漢字とを上下二段に書してなるところ、「kanon」の欧文字部分からは、ローマ字読みに「カノン」の称呼を、また、「花音」の漢字部分からは、「カノン」、「カオン」、「ハナオト」の称呼を、夫々生ずるものである。

他方、引用商標1、3及び4は、その構成中に「カノン」の片仮名文字より「カノン」の称呼が生ずることは明らかである。また、引用商標2は、「KANON」の欧文字より、ローマ字読みに「カノン」の称呼を生ずるものである。

してみれば、本願商標と引用商標とは、「カノン」の称呼を共通とする類似の商標と言わざるを得ない。




2. 無効2004-89115(登録第4345039号商標の商標登録無効審判事件)

(1)本件商標:

「MARS」の文字と「マース」の文字とを上下二段に書したものであり、指定商品を第29類「食用油脂,乳製品,食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,カレー,シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」とするものである。

(2)請求人の引用する商標

本件商標の登録の無効の理由として引用する登録商標は下記の通りである。

登録第27219951号(引用商標):

「マルス」の文字と「MARS」の文字を上下二段に表してなり、指定商品を第31類「砂糖,氷砂糖,角砂糖,ぶどう糖,果糖,はち蜜,乳糖,麦芽糖,水あめ,人工甘味料,粉末あめ,食用油脂,乳製品」とするものである。

(3)請求人の主張

(i)外観上の類似性

本件商標は、欧文字「MARS」と片仮名文字「マース」とを上下二段に横書きした構成である。引用商標は、片仮名文字「マルス」と欧文字「MARS」とを上下二段に横書きした構成から成る。両商標は、欧文字「MARS」を共通の構成要素とし、そこに付された片仮名も、欧文字部分から自然に発生する二つの称呼「マース」と「マルス」を夫々付加したに過ぎない。

この片仮名3文字も、中間に位置する「ー」と「ル」とが異なるのみであるから、両者は、外観上、極めて紛らわしいと言うべきである。

(ii)称呼上の類似性

本件商標は、その構成中の片仮名文字から「マース」の称呼が生じることは明らかであるが、「MARS」の欧文字から「マルス」の称呼をも生じる。一方、引用商標からも、その構成中の片仮名文字から「マルス」の称呼が生じるが、「MARS」の欧文字から「マース」の称呼も生じる。

従って、両者は、称呼上も、極めて紛らわしいと言うべきである。

(iii)観念上の類似性

本件商標と引用商標とは、欧文字「MARS」を共通の構成要素とする。「MARS」には、「古代ローマの神話に登場する軍神」という意味と、「火星」の意味がある。また、片仮名文字の「マース」や「マルス」にも同様の意味がある。

従って、両者は、観念を共通にする類似の商標である。

(4) 審判における判断

本件商標は、「MARS」の文字と「マース」の文字を二段に表したものであり、「MARS」の欧文字は、「マルス」とも読まれ「古代ローマの軍神、火星」の意味を有する英語である。また、「マース」の片仮名文字は「マルス」と同義語であって、「マルス[Mars]」あるいは「マース」は、いずれも「古代ローマの軍神、火星」の意味を有する。従って、本件商標は、「マース」の称呼が生ずるほか、「MARS」の欧文字より「マルス」の称呼も生ずると言えるものであり、「古代ローマの軍神、火星」の観念を生ずる。

他方、引用商標は、「マルス」の文字と「MARS」の文字を二段に表したものである。構成各文字に相応して「マルス」の称呼を生ずるほか、「MARS」の欧文字部分から「マース」の称呼も生ずると言えるものであり、「古代ローマの軍神、火星」の観念を生ずるものである。

従って、本件商標と引用商標とは、その観念及び称呼を共通するものであり、本件商標と引用商標に類似する商標と判断される。




3. 無効2006-89147(登録第4632390号商標の商標登録無効審判事件)

(1)本件商標:

「NATUREWHITE」の文字を標準文字で書したものであり、指定使用品を第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」とするものである。

(2)請求人の引用する商標

本件商標の登録の無効の理由として引用する登録商標は下記の通りである。

登録第4320214号(引用商標):

「ホワイトナチュレ」の文字と「WHITE NATURE」の文字を上下二段に表してなり、指定商品を第3類「化粧品,香料類」とするものである。

(3)請求人の主張

本件商標は、「NATUREWHITE」の文字を表してなるところ、その構成中前半の「NATURE」の文字が「自然」、後半の「WHITE」の文字が「白、白色」の意味を有する英語として一般に親しまれ、使用されているから、これらの各文字を結合したと容易に把握、理解できるものである。

引用商標は、「ホワイトナチュレ」と「WHITE NATURE」の文字を上下二段に表してなり、「NATURE」の文字が「ネイチャー」と発音する英語として、一般に親しまれ、使用されているものであるから、上段の片仮名文字部分が下段の欧文字部分の自然の称呼を表したものとは言えないこと及びその構成よりみて、下段の「WHITE NATURE」の文字も独立して看者の注意を惹き、かつ、自他商品の識別標識たり得ると認められるものである。また、当該「WHITE NATURE」の文字は、本件商標と同様に「WHITE」と「NATURE」の文字を結合してなると容易に把握、理解できるものである。

そこで、本件商標を構成する「NATUREWHITE」と引用商標中の「WHITE NATURE」の文字を比較すると、いずれも「NATURE」と「WHITE」の文字を結合したものであって、これらの文字において、専ら一方が他方を修飾するというような主従・軽重の差は見出せないから、両者を構成する各文字の配列が単に入れ替わったに過ぎないということができる。

そして、両者は、その構成する「NATURE」と「WHITE」の文字の配列において前後の違いはあるとしても、その相違によりそれぞれが一連の熟語的意味合いを有する語として別個独立の観念をもって一般に親しまれているというような事情も見当たらないから、取引者・需要者が、これらの文字の配列を常に正確に記憶に留めるとは言い難く、むしろ、それぞれの前後にかかわりなく、「NATURE」と「WHITE」の各文字及び「自然」と「白、白色」の各観念の組合せから成る商標として強く印象づけられるものとみるのが相当である。

そうすると、本件商標を構成する「NATUREWHITE」と引用商標中の「WHITE NATURE」の文字は、これを離隔的に観察した場合、これに接する取引者・需要者をして、共に「自然」と「白、白色」の意味を有する語を組み合わせたものとして記憶に残る点で観念上相紛らわしく、かつ、称呼においても、構成する2語の前後が正確には記憶に残らず、「ネイチャーホワイト」か「ホワイトネイチャー」のいずれであったのか判別し難いと言い得るものであるから、称呼上も聞き誤るおそれがあるものと言わざるを得ない。

(4) 審判における判断

本件商標は、「NATURE」及び「WHITE」の文字を結合した「NATUREWHITE」の文字よりなるところ、構成各文字は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔で表されていて、外観上まとまりよく一体的に看取し得るものであり、これより生ずると認められる英語の読みに倣った「ネイチャーホワイト」の称呼も格別冗長と言うべきものではなく、よどみなく一連称呼し得るものであるから、本件商標は、その構成文字全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し把握されるとみるのが相当である。そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「ネイチャーホワイト」の称呼のみを生ずると言わざるを得ない。

引用商標は、上記の通り「ホワイトナチュレ」「WHITE NATURE」の文字よりなるところ、構成各文字は、同じ書体、同じ大きさに表されていて、外観上まとまりよく一体的に看取し得るものであり、これより生ずると認められる「ホワイトナチュレ」又は「ホワイトネイチャー」の各称呼も格別冗長と言うべきものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものであるから、引用商標は、その構成文字全体をもって一体不可分の造語より成るものと認識し把握されるとみるのが相当である。そうすると、引用商標は、その構成文字中上段の片仮名文字に相応して「ホワイトナチュレ」、又は、下段の欧文字に相応して「ホワイトネイチャー」の各称呼を生ずるものと認められる。

本件商標より生ずると認められる「ネイチャーホワイト」の称呼と引用商標より生ずると認められる「ホワイトナチュレ」又は「ホワイトネイチャー」の各称呼とは、その音構成及び音数に明らかな相違が認められるから、両者は容易に区別し得るものである。

また、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を有しない造語より成るものであるから、観念上比較することはできない。外観においても著しく異なる。




検討

上記の1. 不服2000-11335で取り上げられました本願商標は、上段の「kanon」の欧文字から称呼「カノン」が生じ、下段の「花音」の漢字から称呼「カノン」、「カオン」、「ハナオト」が生ずると判断されています。

上記の2. 無効2004-89115で取り上げられました本件商標は、上段の「MARS」の文字から称呼「マース」、「マルス」が生じ、下段の「マース」の文字から称呼「マース」が生ずると判断され、引用商標は、上段の「マルス」の文字から称呼「マルス」が生じ、下段の「MARS」の文字から称呼「マース」、「マルス」が生ずると判断されています。

また、上記の3. 無効2006-89147で取り上げられました本件商標は、「NATUREWHITE」の文字から称呼「ネイチャーホワイト」のみが生ずると判断され、引用商標は、上段の「ホワイトナチュレ」の文字から称呼「ホワイトナチュレ」が生じ、下段の「WHITE NATURE」の文字から称呼「ホワイトネイチャー」が生ずると判断されています。

以上のように、商標の類否判断におきまして二段書き商標というのは、上下、夫々の文字から生ずる称呼により類否判断がなされることになります。但し、その文字から発生する称呼は自然発生的に生ずるものとされています。

従いまして、上記3のように、上段に「ホワイトナチュレ」と片仮名で記載されていても、下段の「WHITE NATURE」の文字からは称呼「ホワイトネイチャー」が生ずると判断されます。「WHITE NATURE」の文字から「ホワイトナチュレ」の称呼は自然発生的に生ずるものではないと判断されるわけです。よって、仮に「ホワイトネイチャー」なる先登録商標が存在していると、この「ホワイトナチュレ」の文字と「WHITE NATURE」の文字を上下二段に表した商標は登録を受けられないということになるのです。

また、上記1の場合に、審判の判断では、「花音」の漢字部分からは、「カノン」、「カオン」、「ハナオト」の称呼を、夫々生ずるとしています。従いまして、商標「花音」を出願した際に、先登録商標として「カノン」、「カオン」、「ハナオト」の仮名書きの商標が存在すると、商標「花音」は登録を受けることが出来ないということになります。但し、「花音」の文字から称呼「カノン」が自然発生的に生ずるか否かは問題のあるところです。

以上のことから判断致しますと、商標を出願する場合に二段書きにして出願することが必ずしも得策であるとは言えないということが分かります。もちろん、十分な調査を実施して出願すればよいのですが、それなりのリスクがあるということを認識しておく必要があります。

以 上