商標登録の出願ならリュードルフィア特許事務所へ。適切な商標権取得のお手伝いを致します。

商標ニュースレター   No.4

今回も、前回と同様に、二段書き商標、例えば、欧文字と仮名、漢字と仮名を二段に記載した商標に関して、その称呼がどのように取り扱われるかに関して争いのあった審決例をいくつかご紹介致します。




1. 不服2005-14322(商願2004-30396号の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標:

上記の欧文文字からなり、指定商品を第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とするものである。

(2)原査定の引用商標

「シェービット」の片仮名文字と「SUAVITE」の欧文字とを上下二段に書したものであり、指定商品を第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」とするものである。

(3)審判における判断

本願商標は、「SUAVITE」(Eの文字の上には、アクサンテギュを有している)の欧文字を書してなり、該文字はフランス語の「心地よさ、甘美な」の意味を有し、「スュアヴィテ」と称呼されるとしても、我国において、一般的に親しまれている語とまではいい難い。

我国においては、外国語のうち英語の普及率が圧倒的に高いことを考慮すると欧文字からなる商標に接した者は、自己の有する英語の知識に従って、これを英語風又は日常的に使用されているローマ字風に読もうとするものと解される。

この事情よりすれば、本願商標は、英語風の読みについては、構成文字全体より「スワーバイト」の称呼を生じ、ローマ字風の読みについては、「スアビテ」の称呼が生ずる。

他方、引用商標は、「シェービット」の片仮名文字及び「SUAVITE」の欧文字を上下二段に書してなるところ該文字は何らかの意味を有さない造語と認められるものである。

そして、上段の「シェービット」の片仮名文字が、下段の「SUAVITE」の欧文字の自然な読みを表示したものと解することはできず、かつ、他に引用商標を一体不可分のものとして把握しなければならない特段の理由は見受けられない。

そうすると、引用商標は、上段の「シェービット」の片仮名文字より「シェービット」の称呼を生ずるほか、構成中下段の「SUAVITE」の欧文字部分は、本願商標の欧文字部分と綴り字を同じくすることから、英語風には「スワーバイト」、ローマ字風には「スアビテ」の称呼が生ずる。

従って、引用商標は、「スワーバイト」又は「スアビテ」の称呼を共通にする称呼上類似の商標である。

外観についてみると、引用商標は上段の片仮名文字が、下段の欧文字の自然な読みを表示しているものと解することが出来ないことから、夫々、独立して自他商品の識別機能を有するものであるところ、当該欧文字と本願商標とでは、その綴り字を全て同じくするものであり、その活字書体の違い及び語尾におけるアクサンテギュの有無に違いがあるものの該文字全体からすると微差に過ぎないものである故、隔離観察する時は、外観上も近似した印象を与えるものである。

従って、本願商標と引用商標とは、観念において相紛れることがないことを考慮しても、その称呼及び観念において類似の商標と言わざるを得ない。




2. 不服2003-10592(商願2002-59766の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

「彩紅」の文字を書してなり、その指定商品は第31類に属する所定の商品である。

(2) 原査定の引用商標

原査定において、本願拒絶の理由に引用した登録第4416092号は、「さいか」「彩香」の各文字を二段に併記してなり、その指定商品は第29類に属する所定の商品である。同じく、登録第4428894号は、「さいか」「彩香」の各文字を二段に併記してなり、その指定商品は第31類に属する所定の商品である。これら引例の指定商品は、本願商標の指定商品に類似する。

(3)審判における判断

本願商標は、上記の通り「彩紅」の文字よりなるものであるから、その構成文字に相応して「サイコウ」の称呼が生ずるものである。

他方、引用商標は、上記(2)の通りの構成よりなるところ、一般に仮名文字と漢字とを併記した構成の商標において、その仮名文字部分が漢字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、仮名文字部分より生ずる称呼がその商標より生ずる自然の称呼というのが相当である。

そうすると、「さいか」「彩香」の各文字を二段に併記してなる引用商標は、両文字部分を分離して考察すべき合理的理由はなく、全体として「さいか」の仮名文字部分は、造語と認められる「彩香」の称呼を特定したものとして理解、認識されるというのが相当であるから、引用商標は、その構成中の仮名文字に相応して「サイカ」の称呼のみを生ずるものというべきである。

してみれば、引用商標より「サイコウ」の称呼をも生ずるとしたうえで、本願商標と引用商標とを比較した原査定は、妥当なものということが出来ない。




3. 不服2005-7369(商願2004-70651の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

「Kanebo」の欧文字と「ビオコスメ」の片仮名文字及び「BIO COSME」の欧文字を上中下三段に横書きしてなり、第3類「せっけん類,香料類」を指定商品とするものである。

(2) 原査定の引用商標

原査定において、本願の拒絶の理由に引用した登録第4633307号は、「バイオコスメ」の片仮名文字を書してなり、第3類「せっけん類,香料類」を指定商品とするものである。

(3)審判における判断

本願商標は、「Kanebo」の欧文字と「ビオコスメ」の片仮名文字及び「BIO COSME」の欧文字を上中下三段に横書きしてなるものである。

一般に、その構成中に欧文字と片仮名文字を併記した部分を有する商標において、その片仮名文字が欧文字の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、片仮名文字より生ずる称呼がその欧文字より生ずる自然の称呼とみるのが相当である。

そうすると、本願商標は、その構成中、中段の「ビオコスメ」の片仮名文字部分が、下段の欧文字「BIO COSME」の読みを特定したものといいえることより、「BIO COSME」の欧文字部分からは、これに併記された上段の「ビオコスメ」の片仮名文字に相応して「ビオコスメ」の称呼のみが生ずるというべきである。

従って、本願商標の構成中、「BIO COSME」の欧文字部分から「バイオコスメ」の称呼をも生ずるものとし、そのうえで、両商標が称呼上類似するものとした原査定は取消を免れない。




検討

1. 不服2005-14322で取り上げた本願商標は、フランス語の「SUAVITE」からなるものである。しかし、フランス語の該文字は、我国において一般的に親しまれているとは言い難く、我が国においては、欧文字からなる商標に接した者は、通常、その文字を英語又はローマ字風に読む。従って、本願商標は、英語風に「スワーバイト」及びローマ字風に「スアビテ」の称呼が生ずると認定されている。

他方、引用商標は、「シェービット」の片仮名文字及び「SUAVITE」の欧文字を上下二段に書してなるものであるが、「シェービット」は「SUAVITE」の欧文字の自然な読みを表示したものと解することが出来ないと判断している。そして、「SUAVITE」の欧文字から、自然には、英語風に「スワーバイト」、ローマ字風に「スアビテ」の称呼が生ずると認定して、本願商標と引用商標とは類似すると判断している。

この審決から判断すると、一般的に欧文字は、英語又はローマ字風に称呼されるものとされる。これは、たとえ、フランス語の商標に仮名文字でフランス語の読みを振ったとしても変わることがないと考えられる。即ち、フランス語に仮名文字でフランス語読みを振った場合には、その仮名文字の読みと、英語及びローマ字風の読みの3種類の称呼が生ずるということになるのである。

上記の引用商標のような場合には、「シェービット」の片仮名文字及び「SUAVITE」の欧文字の2つが、この商標の要部となることに注意が必要である。例えば、安易に仮名でふりがなを振って、その商標を夫々単独で使用していると登録商標の使用とは認められない場合があり得ることに注意が必要である。

上記の2. 不服2003-10592及び3. 不服2005-7369については、審査基準とは異なる考え方が適用されていると考えられる。前回のニュースレターNo.3で説明した通り、審査基準では「振り仮名があっても、漢字から生ずる自然な称呼は称呼として認定する。」という考えに立っている。

2. 不服2003-10592の場合、引用商標において「彩香」に「さいか」の振り仮名があっても、「彩香」の文字からは「サイコウ」の称呼が自然に生ずるとも考えられる。また、3. 不服2005-7369の場合においても、本願商標の「BIO COSME」に「ビオコスメ」の振り仮名があったとしても、「BIO COSME」の文字からは「バイオコスメ」の称呼が自然に生ずると考えられる。

審査においては、審査基準に則って「彩紅」と「彩香」は称呼「サイコウ」において同一であるから、両者は類似すると判断し、また、「BIO COSME」から「バイオコスメ」の称呼が自然に生ずる故に、両者は類似すると判断したに他ならない。しかし、審判においては、2. 不服2003-10592の場合に、「その仮名文字部分が漢字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、仮名文字部分より生ずる称呼がその商標より生ずる自然の称呼というのが相当である。」とし、3. 不服2005-7369の場合に、「その片仮名文字が欧文字の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、片仮名文字より生ずる称呼がその欧文字より生ずる自然の称呼とみるのが相当である。」として、その他の称呼は生じないと認定した。

この審判の判断から考えれば、漢字又は欧文字から自然に発生する称呼が複数あっても、その一つの振り仮名があれば、自然に発生する称呼は、その振り仮名の付されている称呼に限定され、その漢字又は欧文字は、その振り仮名通りにしか読めないということになる。現在、審査においてもこの審判での判断どおりに運用されているのであろうか。それとも、審査基準どおりに運用されているのだろうか。例えば、上記二つの審決後の2011年に登録査定された登録第5499148号(商願2011-92276)は商標「八宝/やっほー」からなり、一方、登録第692707号「パーホン/八鳳」が既に存在していた。自然な称呼という考え方に立てば、両者とも「ハッポウ」と言う称呼が生ずると考えられる。特に後者の「パーホン」は自然な称呼とは言い難い。しかし、前者が登録されているところをみると、夫々、振り仮名通りの称呼と認定されているものと思われる。

商標の審査は分かりにくいところがあり、この審判の判断がそのまま審査に適用されるのか、あるいは、審査基準どおりに運用されるのかはケースバイケースとしか言いようがない。しかし、今後、このような二段書きの商標を出願する際には上記の審決は大いに参考になるのではないかと考える。

以 上