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商標ニュースレター   No.5

今回も、前回と同様に、二段書き商標、例えば、欧文字と仮名文字を二段に記載した商標に関して、その称呼がどのように取り扱われるかに関して争いのあった審決例をいくつかご紹介致します。




1. 不服2006-24212(商願2005-99918の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

「花蘭」の文字と「キャラン」の文字とを上下二段に書したものであり、指定商品を第3類「せっけん類,香料類,化粧品」とするものである。

(2)原査定の引用商標

「Kraan」の文字と「カラン」の文字とを上下二段に書してなり、指定商品を第4類「せっけん類(薬剤に属するものを除く),歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く),香料類」とするものである。

(3)審判における判断

本願商標と引用商標の称呼についてみると、本願商標は、「花蘭」と「キャラン」の文字とを上下二段に書してなるところ、下段の「キャラン」の文字は、その音構成からして、上段の「花蘭」の読みを特定するものとは言い得ず、また、これらの文字が常に一体不可分のものとしてのみ看取、把握されるとみるべき特段の事情も見出し得ないものであるから、これら「花蘭」の文字と「キャラン」の文字とは、夫々独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るとみるのが相当である。

そうとすれば、本願商標は、「花蘭」の文字部分から「ハナラン」又は「カラン」の称呼が生じ、かつ、「キャラン」の文字部分から「キャラン」の称呼を生ずるものである。

他方、引用商標は、「Kraan」と「カラン」の文字とを上下二段に書してなるところ、下段の「カラン」の文字は、その音構成からして、上段の「Kraan」の読みを特定するものとは言い得ず、また、これらの文字が常に一体不可分のものとしてのみ看取、把握されるとみるべき特段の事情も見出し得ないものであるから、これら「Kraan」と「カラン」の文字とは、夫々独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るとみるのが相当である。

そうとすれば、引用商標は、「Kraan」の文字部分から英語読み風の「クラーン」の称呼を生じ、かつ、「カラン」の文字部分から「カラン」の称呼を生ずるものである。

してみれば、両商標は、「カラン」の称呼を共通にする場合があるということが出来る。

しかし、本願商標は、「花蘭」の文字部分から「花の蘭」の観念を生ずるのに対し、引用商標は、「Kraan」及び「カラン」のいずれの文字からも、直ちに特定の観念を生ずるとは言い得ないから、両商標は、観念上、大きく相違するものである。

また、両商標は、夫々前記の通りの構成からなるものであるから、外観上、明確な差異を有するものであって、見誤るおそれがないものである。

そうすると本願商標と引用商標とは、「カラン」の称呼を共通にする場合があるとしても、外観及び観念において明らかに相違するものであるから、その外観、称呼及び観念を総合的に考察すれば、これらが取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等は大きく異なるというべきであり、両商標を同一または類似の商品について使用した場合においても、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのない非類似の商標とみるのが相当である。




2. 不服2003-17548(商願2002-81100の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

上記の構成よりなり、指定商品を第30類「菓子及びパン」とするものである。

(2)原査定の引用商標

「LUPO」を標準文字で書してなり、指定商品を第30類「菓子及びパン」とするものである。

(3)審判における判断

本願商標は、上段の欧文字と下段の片仮名文字は、その文字の大きさや線の太さを異にしてはいるものの、その構成は、各音節をなすと認められる欧文字に沿うように片仮名文字が配列され、外観上バランスよく一体的に表現されている。

また、「ルルポ」の文字が、その欧文字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識し得るものであり、かつ、これより生ずると認められる「ルルポ」の称呼も格別冗長というべきものではなく、よどみなく一連称呼できるものである。

そして、頭部の「Le」及び「ル」の文字が仏語の定冠詞及びその字音に相当する語であるとしても、本願商標の如く比較的簡潔な構成にあって、かつ後続の「Repos」「ルポ」の文字が我が国において親しまれた語とも言い得ない場合においては、その構成の全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが自然である。

そうとすれば、本願商標は、その構成文字全体に相応する「ルルポ」の一連の称呼のみを生ずるものと判断するのが相当である。

一方、引用商標は、その構成文字に相応して「ルポ」の称呼を生ずるものと認められる。

してみれば、本願商標より生ずる「ルルポ」の称呼と引用商標より生ずる「ルポ」の称呼とは、構成音数、音構成において明らかな相違を有するものであって、互いに相紛れるおそれはないものと認められる。




3. 不服2007-33887(商願2007-4411の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

「brin」の欧文字と「ブラン」の片仮名文字を二段書きに書してなり、指定商品を第9類とするものである。

(2) 原査定の引用商標

「C-PLAN」を標準文字で書してなり、指定商品及び役務を第9類及び第42類とするものである。指定商品は本願商標の指定商品と類似するものである。

(3)審判における判断

本願商標は、「brin」の欧文字と「ブラン」の片仮名文字を二段書きしてなるところ、「brin」の文字は、フランス語で「(草の)細い茎、糸」などの意味を有する語であるが、我国において直ちにその意味を理解できる程馴染みあるフランス語ともいえないことから、造語として理解されるものである。また、一般に欧文字と仮名文字とを併記した商標において、その仮名文字部分が欧文字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、仮名文字部分より生ずる称呼がその欧文字部分より生ずる自然の称呼とみるのが相当であるから、構成中の片仮名文字に相応して、「ブラン」の称呼が生ずるものと認められる。

一方、引用商標は、「C-PLAN」を標準文字で表してなるところ、構成文字全体に相応して「シープラン」の称呼が生ずるものであり、全体として特定の意味を有する成語として辞書等に掲載されているものではないから、一種の造語というのが相当である。ところで、本願及び引用商標の指定商品でもある電気機械関連の業界をはじめ各種分野に携わる事業者は、夫々に自己の製造、販売に係る各種製品について、その製品管理又は取引上の利便性から、ローマ字1文字ないし2文字又はこれらの文字や数字とをハイフンで結合させた語を、当該商品の型式・規格等を表示するための記号・符号として、商取引上類型的に採択・使用している実情がある。また、ハイフンは、言語表記の補助記号であり、英文などで合成度の浅い複合語の連結、つなぎに使うだけでなく、1語内の形態素(意味を持つ最小の言語単位)の区切りを明確にするのに使うものでもあるから、引用商標「C-PLAN」は、常に一連一体と把握されるものともいい得ないものである。

そうとすれば、引用商標の「C」と「PLAN」の文字部分は視覚上分離して看取されるところであり、構成中の「C」と「-」の文字部分は、商品及び役務の種別、規格又は型式を表すための記号・符号の表示として、理解されることも少なくないものであるから、構成中「PLAN」の文字部分に着目し、「PLAN」の文字部分を自他商品、役務の識別標識として機能を果たす部分と把握し、これより生じる「プラン」の称呼をもって取引に当たる場合も少なくないものと認める。

そこで、まず、本願商標より生じる「ブラン」の称呼と引用商標より生じる「シープラン」の称呼とを比較すると、両者は、その音構成を異にするから互いに区別し得るものである。次に、本願商標より生ずる「ブラン」の称呼と引用商標より生ずる「プラン」の称呼とを比較すると、両称呼は共に3音という短い音構成より成るものであり、称呼上における識別上重要な要素を占める頭語において「ブ」と「プ」の音が相違するばかりでなく、引用商標から生ずる「プラン」の称呼は、「計画、案、プラン」などの意味を容易に想起させる親しまれた語であることも相俟って、該差異音が称呼全体に与える影響は決して小さいものとはいえず、両者を夫々一連に称呼するときは、互いに聞き誤るおそれはないものと言うべきである。




4. 不服2006-28265(商願2006-22814の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

「クロワ」及び「CROIX」の文字を上下二段に横書きしたものであり、指定商品を第25類とするものである。

(2)原査定の引用商標

「ST.CROIX」の標準文字を横書きしたものであり、指定商品を第25類とするものである。該指定商品は本願商標の指定商品と類似する。

(3)審判における判断

本願商標は、「クロワ」及び「CROIX」の文字を上下二段に横書きしてなるから、該構成文字に相応して「クロワ」の称呼を生ずる。

これに対し、引用商標は、「ST.CROIX」の標準文字を横書きしてなるところ、その構成各文字は、外観上まとまりよく一体的に表されており、これより生ずると認められる「セントクロイクス」又は「セントクロワ」の称呼も格別冗長というべきものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。

そして、前半の「ST.」の文字は、「聖人、聖者」を意味する英語「saint」の省略形であって、「セント」と称呼され、しばしば人名に冠して用いられる「St.」の大文字と解すのが自然であるから、これが、例えば、商品の型式、品番、規格等を表示する記号、符号として容易に認識し、把握されるものとは認め難い。

そうすると、取引の実際にあっては、かかる構成よりなる引用商標中、前半部の「ST.」の文字部分を省略して、後半部の「CROIX」の文字部分のみが独立して認識され、該文字に相応して「クロワ」の称呼のみが生ずると見るべき特段の事情は見出せない。

むしろ、引用商標は、その構成全体をもって一体不可分のものとして認識し、把握され、これより生ずる「セントクロイクス」又は「セントクロワ」の称呼をもって取引に資されるものというべきであるから、それらの一連の称呼のみを生ずるものと判断するのが相当である。




検討

1. 不服2006-24212で取り上げた本願商標及び引用商標は、夫々、「花蘭」の文字と「キャラン」の文字とを上下二段に書したもの、及び、「Kraan」の文字と「カラン」の文字とを上下二段に書したものである。これらは、いずれも、その仮名文字部分は欧文字部分の読みを特定したものとは言えないと判断されている。即ち、本願商標において、「花蘭」の文字部分から「ハナラン」又は「カラン」の称呼が生じ、引用商標において、「Kraan」の文字部分から英語読み風の「クラーン」の称呼を生じると認定されている。この考え方は、既に説明した審査基準の考え方に則っている。

従って、このような場合、欧文字部分に仮名文字でフリガナを振っても、類否判断上、その称呼は、その仮名文字の読みであるとは認められないということである。即ち、本願商標の場合、「花蘭」からは、「ハナラン」又は「カラン」の称呼が生じ、かつ、「キャラン」の文字部分から「キャラン」の称呼が生じる。結局、称呼類似の判断は、上記3種類の称呼により行われることになる。「キャラン」とフリガナを振ったからと言って、「キャラン」の称呼のみが生ずるというわけではないということに留意しなければならない。

なお、本件においては、本願商標と引用商標は、称呼「カラン」において共通しているにもかかわらず、外観及び観念が大きく相違する故、外観、称呼及び観念を総合的に考察すれば、両者は出所混同を生じないと判断されている。この点にも注目すべきである。称呼がいくつかあり、その一つが同一であっても、外観及び観念が著しく相違すれば登録を認められる可能性があるということである。

2. 不服2003-17548で取り上げた本願商標においては、「ルルポ」の文字が、その欧文字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識し得ると判断されている。我国において親しまれている欧文字の読みは英語又はローマ字風の読みであるという考え方に基づけば、「レレポス」と称呼されるのではないかと思われる。しかし、本件の場合、引用商標が、「LUPO」であることから、「レレポス」と言う称呼は、取り上げるまでもなく非類似であるから問題にはしていないのであろう。むしろ、下段の仮名文字「ルルポ」を問題にしているのである。即ち、「ルルポ」を、「ルルポ」と一連称呼するのか、それとも、「ル」「ルポ」と分離して称呼するかの問題である。審査段階では拒絶査定になっていることから、「ル」「ルポ」と分離して称呼すると判断されたのである。審判では一転して一体不可分であるから、「ルルポ」と一連称呼すると判断された。いずれにしても、このような本願商標の場合には、「ルルポ」、「ル」「ルポ」及び「レレポス」、「レ」「レポス」という4種類の称呼が生ずる可能性があるとして、出願時に類否判断をしておく必要があるのであろう。

3. 不服2007-33887で取り上げた本願商標においては、仮名文字部分が欧文字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるものであるとして、「brin」の欧文字から「ブラン」の称呼が生ずると認定されている。この場合にも、我国において親しまれている欧文字の読みは英語又はローマ字風の読みであるという考え方に基づけば、むしろ「ブリン」と称呼されるのではないかと思われる。しかし、本件の場合も、引用商標が、「C-PLAN」であることから、取り上げるまでもなく、これらの称呼は非類似であるとしているのであろう。一方、引用商標「C-PLAN」に関しては、「シープラン」の称呼に加えて、「プラン」の称呼も生ずるとされている。これは、上記の「Le-Repos」とは相違する点である。ハイフンの前につく文字が、種別、規格又は型式を表すための記号・符号等と認識されるようなものである場合には、称呼においてこのように判断される場合があるので注意が必要である。従って、本願商標からは、「ブラン」及び「ブリン」の2種類の称呼が生じ、引用商標からは、「シープラン」及び「プラン」の2種類の称呼が生じると考える必要があろう。

4. 不服2006-28265で取り上げた本願商標からは、「クロワ」の称呼を生ずると判断されている。これに関しても、「クロイクス」の称呼が生ずるであろうことは、上記と同様である。引用商標「ST.CROIX」からは、「セントクロイクス」又は「セントクロワ」の称呼が生ずると判断されている。これは、「ST.」の意味内容から考えて、商品の型式、品番、規格等を表示する記号、符号として認識し得るものではないとの判断である。しかし、審査では拒絶査定になっているところを見ると、審査段階では「クロイクス」又は「クロワ」の称呼も生ずると判断されたのである。このように商標の類否判断、とりわけ、称呼の類否判断というのは著しく微妙である。

商標登録出願をする際には、原則として、その商標が登録を受けられる可能性があるか否かを事前に調査する。その際、称呼類似の判断は大きなウェートを占めている。従って、出願する商標に関して、考えられ得る全ての称呼を書き出し、それらのうちから、更に自然に発生すると考えられる称呼を選び出して、それらに関して、称呼類似の判断を実施する。実際、ハイフンで結合されている商標、複合商標等の称呼を認定するのは、上記の審決にあるような種々の判断手法を採用するわけであるが、ケースバイケースであり難しい判断を迫られることも多いものである。

上記4件の商標登録出願に関しては、審判で登録になっているとはいうものの、審査段階ではいずれも拒絶査定を受けているものである。従って、出願に際しては、審判請求をするという覚悟がある程度必要であろう。審判を請求するとなれば、それ相応の費用及び時間を要するのであるから、出願人にとっては大きな負担になることは否めない。

以 上