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商標ニュースレター   No.7

今回は、また、二段書き商標、例えば、漢字と仮名文字、欧文字と仮名文字を二段に書した商標に関して、その称呼がどのように取り扱われるかに関して争いのあった審判決例をご紹介致します。




1. 不服2008-2581(商願2006-119524の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

「プラチナポーク」の片仮名文字と「白金豚」の漢字を上下二段に書したものであり、指定商品を第29類「豚脂,豚肉,豚肉製品,豚肉を用いたカレー・シチュー又はスープのもと,豚肉を用いたふりかけ,豚肉を用いたなめ物,豚肉を原料とする食用たんぱく」とするものである。

(2)原査定の引用商標

(i)登録第2238581号「PLATINUM」の欧文字を書してなり、指定商品を第31類「調味料,香辛料,食用油脂,乳製品」とするものである。

(ii)登録第2266840号「PLATINUM」の欧文字を書してなり、指定商品を第32類「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食品(他の類に属するものを除く。)」とするものである。

(iii)登録第2563758号「プラチナ」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を第31類「調味料,香辛料,食用油脂,乳製品」とするものである。

(iv)登録第5084440号「白金 シロガネ」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を第29類「卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチューまたはスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」及び第31類「生花の花輪,ホップ,海藻類,野菜,糖料作物,果実,コプラ,麦芽,うるしの実,未加工のコルク,やしの葉」とするものである。

(3)審判における判断

本願商標は、上段の「プラチナ」及び「ポーク」の片仮名文字は、各々、「白金」及び「豚肉」を意味するものとして親しまれた平易な外来語であり、指定商品との関係においては、漢字を構成する「白金」及び「豚」の文字部分と、観念において照応していると認められる。

そして、特定の称呼、観念をもって親しまれていない文字(漢字、欧文字等)に、その文字の読み方を表すものと認識し得る片仮名文字あるいはローマ文字が併記されている場合には、その称呼をもってその商標より生ずる称呼が特定されたものとみるべきである。

そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は「プラチナポーク」の片仮名文字部分は、全体として特定の称呼、観念をもって親しまれていない「白金豚」の漢字部分の読み方を表すものとして、極めて容易に理解し認識し得るというのが自然であるから、本願商標は、その片仮名文字に照応して「プラチナポーク」の称呼のみが生ずるというのが相当である。

従って、本願商標の構成中「プラチナ」の文字部分をとらえて、「プラチナ」の称呼及び「白金」の観念を生ずるものとした原査定は妥当ではない。




2. 不服2005-12060(商願2004-77063の拒絶査定に対する審判事件)

(1)本願商標

上記の構成よりなり、指定役務を第44類「エステティック美容その他の美容,理容」とするものである。

(2)原査定の引用商標

登録第4410960号「Ange」の文字と「アンジュ」の文字とを二段に書してなり、指定役務を第42類「美容,理容,入浴施設の提供,あん摩,マッサージ及び指圧」とするものである。

(3)審判における判断

本願商標は、所定の図形の下部に「ANGE」の文字を配してなるところ、その構成中の図形部分と文字部分は、常に一体のものとしてとらえなければならない特段の理由も見いだせないものであって、「ANGE」の文字部分も独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。

そして、当該「ANGE」の文字部分は、特定の親しまれた観念を有するものともいえないから、一種の造語と認識されるところ、我国で最も親しまれている外国語である英語風の発音方法によって称呼されるとみるのが相当であるから、その構成文字に相応して「アンジ」の称呼を生ずるものである。

これに対し、引用商標は、「Ange」の文字と「アンジュ」の文字とを二段に書してなるものであり、特定の親しまれた観念を有するものともいえないから、一種の造語と認識されるものであり、また、「アンジュ」の片仮名文字が「Ange」の読みを特定したものと把握、認識されるものであるから、これより「アンジュ」の称呼を生ずるものである。

そこで、本願商標より生ずる「アンジ」の称呼と引用商標より生ずる「アンジュ」の称呼とを比較すると、両称呼は、第1音から第2音までの「ア」「ン」の音を同じくし、末尾における「ジ」と「ジュ」の音の差異を有するものであるが、この差異が3音という短い音構成からなる両称呼全体に及ぼす影響は大きく、それぞれを一連に称呼した場合には、全体の語調、語感が相違し、十分聴別し得るものである。

そして、本願商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものであり、また、いずれも造語と認められるから、観念上比較することもできない。




3. 東京高裁平成1(行ケ)55(無効S57-21631の審決取消訴訟)

(1)本件登録商標(登録第1401545号)

「VAXON」及び「バクソン」の文字を上下二段に書したものであり、指定商品を第1類「製鉄用合金添加剤,その他本類に属する商品」とするものである。

(2)引用商標

登録第467571号「バキソ」及び「BAXO」の文字を上下二段に書したものであり、指定商品を第1類「化学品,薬剤及び医療補助品」とするものである。

(3)裁判における判断

原告は、本件商標と引用商標の称呼について、本件商標の「VAXON」の部分からは「バクソン」又は「バキソン」との称呼が生じ、引用商標の「BAXO」の部分からは「バクソ」又は「バキソ」の称呼が生じるから、本件商標からは「バクソン」の称呼のみが、引用商標からは「バキソ」の称呼のみが生ずるとの審決の認定が誤りである旨主張する。

本件商標においては「VAXON」、引用商標においては「BAXO」なる部分はいずれも単独ではどのように発音するか必ずしも明らかではないが、夫々「バクソン」及び「バキソ」の片仮名文字が、各欧文字の上段又は下段に併記されていることから見て、これらの商標の出願人としても、取引者需要者に対し、本件商標においては、「バクソン」と称呼させることを意図し、他方、引用商標において、「バキソ」と読ませたいという意図のもとに片仮名文字を併記したものと推認される。そうであれば、両商標において併記された片仮名文字により、その上段又は下段の欧文字の読み方を特定させるものと認めるのが相当である。

原告は、両商標のように二段併記の構成の文字よりなる商標の各部分が別個に使用されるのが通例であるとして、二段併記の構成を一体的に観察して両者の類似判断をすべきでない旨主張する。しかし、先に登録された商標と類似することを理由とする商標登録の無効は、先後願の関係にある登録商標自体の対比により判断されるべきものである。仮に商標の具体的使用態様をも考慮して類否判断をする必要がある場合があるとしても、原告が主張するように、二段併記の構成の商標が別個に独立に使用されることが取引界において通例であることを認めるに足る証拠はない。

更に、両商標の具体的使用態様についてみるに、商標登録の無効の審判請求は、商標法所定の拒絶事由があって本来登録を拒絶すべきであった商標登録出願が過誤によって登録された場合に無効事由の存在を主張して、原則的にその登録が初めから存在しなかったこととする審決を求めるものであるから、無効事由の存否は登録査定の時点において判断されるべきものであり、本件商標に係る登録出願が、その査定時以前において如何なる態様において使用されていたかを認めるに足る特段の証拠も見出せないから、結局本件商標については、その後の具体的態様を問うまでもなく、二段併記の構成により対比するほかない。また、引用商標についてみても、その指定商品のうち「化学品」について「BAXO」の欧文字のみが付されて使用されている態様を認め得る証拠はなく、「バキソ」の片仮名文字と「BAXO」の欧文字とが包装容器の別の箇所に分離して表示されている使用の態様が認められるものの、これに接する取引者、需要者としては、包装容器の表に表示された「バキソ」の片仮名文字から同じ容器の別の箇所に表示された「BAXO」の欧文字についても、これを「バキソ」と発音するであろうことは容易に推測できることであるから、仮にその具体的使用態様を考慮するとしても、このような使用の形態から引用商標において「バキソ」とは違った称呼が生ずるとみることはできない。

以上の通り、原告の主張を認めず登録を維持しました。




検討

1. 不服2008-2581で取り上げた本願商標「プラチナポーク」の片仮名文字と「白金豚」の漢字を上下二段に書した商標については、「特定の称呼、観念をもって親しまれていない文字(漢字、欧文字等)に、その文字の読み方を表すものと認識し得る片仮名文字あるいはローマ文字が併記されている場合には、その称呼をもってその商標より生ずる称呼が特定されたものとみるべきである。」とあっさりと断定している。即ち、「白金豚」は、特定の称呼、観念をもって親しまれていない文字に該当するということで、「プラチナポーク」とのみ称呼されると認定されている。「白金豚」の漢字からどのような称呼が自然に生ずるかについては、何ら検討していない。

2. 不服2005-12060で取り上げた本願商標及び引用商標は、いずれも「Ange」の文字を有するにもかかわらず、本願商標は「アンジ」と称呼し、引用商標は「アンジュ」と称呼すると認定している。その理由は、引用商標は、「「Ange」の文字と「アンジュ」の文字とを二段に書してなるものであり、特定の親しまれた観念を有するものともいえないから、一種の造語と認識されるものであり、また、「アンジュ」の片仮名文字が「Ange」の読みを特定したものと把握、認識されるものであるから、これより「アンジュ」の称呼を生ずるものである。」と認定されたためである。同じ「Ange」の文字であっても異なる称呼が生ずるというのは、なんとも理解し難い。

3. 東京高裁平成1(行ケ)55で取り上げた本件商標は、「VAXON」及び「バクソン」の文字を上下二段に書したものであり、引用商標は、「バキソ」及び「BAXO」の文字を上下二段に書したものである。該判決では、「本件商標においては「VAXON」、引用商標においては「BAXO」なる部分はいずれも単独ではどのように発音するか必ずしも明らかではないが、夫々「バクソン」及び「バキソ」の片仮名文字が、各欧文字の上段又は下段に併記されていることから見て、これらの商標の出願人としても、取引者需要者に対し、本件商標においては、「バクソン」と称呼させることを意図し、他方、引用商標において、「バキソ」と読ませたいという意図のもとに片仮名文字を併記したものと推認される。そうであれば、両商標において併記された片仮名文字により、その上段又は下段の欧文字の読み方を特定させるものと認めるのが相当である。」と認定している。その商標がどのように称呼されるかは、その商品(役務)を取り扱う需要者、取引者を基準に判断するのではないのだろうか。出願人がいくら上記のように読ませたいと考えても、需要者、取引者の全てが本当にそのように称呼するのであろうか疑問がある。

上記の1、2及び3の審判等の判断からは、漢字又は欧文字に振り仮名が振ってある場合には、その漢字又は欧文字で示されている単語が一般的に親しまれているものではないなら、その振り仮名が称呼として取り扱われると判断される可能性が高いということである。

ここで、審査基準に立ち返ってみる。審査基準では、

「5.振り仮名を付した文字商標の称呼については、次の例によるものとする。

(イ) 例えば、「紅梅」のような文字については、「ベニウメ」と振り仮名した場合であっても、なお「コウバイ」の自然の称呼をも生ずるものとする。

(ロ) 例えば、「白梅」における「ハクバイ」及び「シラウメ」のように2以上の自然の称呼を有する文字商標は、その一方を振り仮名として付した場合であっても、他の一方の自然の称呼をも生ずるものとする。

(ハ) 例えば、商標「竜田川」に「タツタガワ」のような自然の称呼を振り仮名として付したときは、「リュウデンセン」のような不自然な称呼は、生じないものとする。」

としている。

審査基準では、上記のように、夫々の自然な称呼を取り上げて判断するとしているのだから、まずは基準に沿って自然な判断してほしいものである。しかし、「特定の称呼、観念をもって親しまれていない文字(漢字、欧文字等)」については、上記のように判断することが多いということを認識して、商標登録出願をすることが重要であると考える。

以 上