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商標ニュースレター   No.8

商標は登録を受けても、ある一定期間(継続して3年以上)使用していなければ、不使用取消審判(商標法第50条)により登録を取り消されることがあることは、既にご説明した通りです。また、商標権の権利範囲内の使用であっても、類似範囲内において故意に他人の商品等と誤認混同を生じせしめるような使用をした場合には、不正使用取消審判(商標法第51条)により登録を取り消されることがあります。今回は、これらの取消審判例を取り上げてご説明して行きたいと考えます。




1. 取消2001-31035(登録第2549288号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

「πウォーター」と横書きしてなり、第32類「食肉、その他本類に属する商品」を指定商品とするものである。

(2)審判における判断

審判においては、提出された使用に関する各証拠をまず整理しました。

(i)乙第5号証は、プラスチック製包装容器に入った豆腐の写真及びひもで括り付けられ、固定されている状態の浄水器の写真であり、豆腐を収納したプラスチック製包装容器の上面には、「おいしい 手造り/ソフトとうふ」、「πウォーター」、「佐野商店」などの文字が表示されている(乙第18号証)。また、浄水器の側面には、「LIFEENARGY/ライフエナジー」、「πウォーター」などの文字が表示されている。

(ii)乙第7号証は、飲食店内の2枚の写真と認められるところ、上段の写真は、店内の壁に「ICE coffee始めました。330円」と書された紙、「いい水飲んでいますか!?/当店では『水』にこだわりをもち環境と体にやさしいπウォーターシステムを利用しています。」などと書かれた紙が貼られたものであり、下段の写真は、テーブル上に豆腐の料理と認められる料理が並べられているものである。

(iii) 乙第15号証は、生体エネルギーシステム研究普及協会発行の「πTECH・FORUM/パイテック・フォーラム」であり、その中で、三河湾リゾート・リンクスは、調理、生け簀、風呂にパイウォーターを利用した水を使用しているといった記事が掲載されている。

そして、審判においては、以下のように判断しました。

被請求人(商標権者)及びその関連会社は、浄水器「BCSπウォーターシステム」の製造、販売を行う会社であり、「πウォーター」は、被請求人等が取り扱う浄水器について使用される商標である。そして、被請求人は、被請求人等が取り扱う浄水器を購入した顧客に対し、これらの顧客が取り扱う「豆腐」、「飲食物の提供」、「宿泊施設の提供」などに、上記「πウォーター」商標の浄水器を利用して得た水を、生産物若しくは提供する飲食物又は提供の用に供する物等に使用したことを表示するために、本件商標を無償で使用許諾したと推認することができる。

ところで、商標は、自他商品を識別することをその本質的機能としているから、現実の使用においても、自他商品の識別標識としての機能が発揮される態様で使用されるべきであり、登録商標と形式的に同一の表示が商品に使用されていても、当該表示が、その商品について自他商品の識別標識として機能していると認められない場合は、即ち商品の品質表示あるいは商品の原材料表示等として認識されるような場合には、当該登録商標を使用しているものということはできないと解すべきである。

本件請求に係る商品中に属する「豆腐」の包装用容器には、「πウォーター」の文字が表示されているが、該「πウォーター」の表示は、豆腐を製造する際に「πウォーター」商標の浄水器から得た水を使用しているということを示したものであり、豆腐についての商標というより、「πウォーター」なる商標を使用した浄水器から得た水を原材料に使用した商品を意味するものということができ、豆腐について自他商品識別標識としての機能を発揮する態様で使用されるということはできない。

また、飲食物の提供、宿泊施設の提供は、第42類に属する役務であって、本件請求に係る商品「豆腐、及びその類似商品」には属しないものである。

加えて、「πウォーター」ないし「πウォーターシステム」に関し、いい水飲んでいますか!?/当店では『水』にこだわりをもち環境と体にやさしいπウォーターシステムを利用しています。」、「調理に・・生け簀に・・お風呂に・・“π”のある風景 三河湾リゾートリンクス」、「やっぱりパイウォーターという水はすごい!・・」(乙第7号証及び乙第15号証)などと記載して宣伝広告している事実からしても、「πウォーター」なる語は、需要者の間でも、通常の水道水より健康によい水を指称するものと理解される場合が多いというのが相当であって、これを商品「豆腐」、「豆腐料理の提供」等について使用しても、自他商品又は自他役務の識別機能を有するものであると認識し得ないものといえる。

審判では以上のように述べて、商標法第50条第1項の規定により、被請求人の登録商標を取り消しました。




2. 取消2004-31334(登録第1418120号の登録取消審判事件)

(1)本件登録商標

指定商品「第19類 台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く)、日用品(他の類に属するものを除く)」

(2)被請求人(商標権者)の使用商標

(3)請求人の標章

(4)審判における判断

(i)被請求人の使用商標(1)及び(2)について

(a)本件商標と被請求人の使用商標(1)及び(2)との類否

本件商標は、「PETERRABBIT」の欧文字部分を一連に横書きして成るのに対し、使用商標(1)は、「PETER」と「RABBIT」の各文字の間に略1文字分のスペースを有すること、また、本件商標は「RABBIT」の「R」の右はらいは長くないのに対し、使用商標(2)は、「RABBIT」の「R」の右はらいが長い特徴的なデザインである等の点において、本件商標と使用商標(1)及び(2)とは、その構成を異にするものであるから、外観上同一とは言えないものである。

しかし、両者は共に「ピーターラビット」の称呼を生ずるものであるから、両者は、上記称呼を共通にする類似の商標ということができる。

(b)使用商品

被請求人は、使用商標(1)を商品「ティッシュペーパーケースカバー」に使用し、使用商標(2)は、被請求人の商品を販売する店内の壁掛に「看板」として使用されていることが認められる。そして、「ティッシュペーパーケースカバー」は、本件商標の指定商品中「日用品」の範疇に包含される。

(c)上記のことから、被請求人は、本件商標と類似の商標をその指定商品に使用しているというべきである。

(ii)請求人等の業務に係る商品又は役務と誤認混同を生ずるか否か

(a)被請求人の使用商標(1)及び(2)と請求人標章との類否

両者を比較すると、使用商標(1)及び(2)は、「PETER」と「RABBIT」の各文字の間に略1文字分のスペースを有してなるものである。これに対して請求人標章(1)及び(2)も「PETER」と「RABBIT」の各文字の間に略1文字分のスペースを有してなるものである。

しかして、使用商標(1)及び(2)と、請求人標章(1)及び(2)は、共に「E」の文字の中棒線を波打たせてなるほか、その書体は極めて酷似するということができ、また、使用商標(2)と請求人各標章とは、上記「E」の文字のほか、「RABBIT」の「R」の文字の右はらいを長くした点において共通し、全体として、ほぼ同一に近いほど酷似するものである。

更に、両者は、「ピーターラビット」の称呼を共通にする。

(b)被請求人標章は、我国において取引者、需要者に広く認識されている。加えて、被請求人の使用商標(1)及び(2)は、被請求人が請求人のライセンシーであったときに使用していたロゴと実質上同一である。

してみれば、被請求人の使用商標(1)及び(2)の使用は、請求人の業務に係る商品又は役務と出所の誤認混同を生ずるものと言わざるを得ない。

(iii)被請求人の故意について

請求人と被請求人とは、ピーターラビットのキャラクター及びキャラクターの名称を用いた商品化事業に関するライセンス契約を締結し、該ライセンス契約は、平成11年10月19日に終了、在庫品売り切り期間も平成12年1月19日に終了して、以後、一切のライセンス契約は存在しない。

請求人は、上記ライセンス契約に基づく使用と推認される被請求人の使用商標(1)及び(2)の使用について、上記契約の終了後及び在庫売り切れ期間終了後に2回にわたり、該使用の中止を求める通知を行っている。

それにもかかわらず、請求人は使用商標(1)及び(2)を使用していた事実が認められる故、「故意」を有していたものと推認せざるを得ない。

審判では以上のように述べて、商標法第51条第1項の規定により、被請求人の登録商標を取り消しました。




検討

1.取消2001-31035で取り上げた本件登録商標は、「πウォーター」の文字からなるものです。登録商標の使用は、その商標がその商品との関係で自他商品識別機能を発揮するような使用でなければなりません。本件の場合には、「πウォーター」の文字は、商品である豆腐についての使用ではなく、その原材料である、所定の浄水器から得た水を使用していることを示したに過ぎないとしました。そして、豆腐について自他商品識別標識としての機能を発揮する態様で使用されていないと判断したものです。

本件においては、被請求人は、豆腐を収納したプラスチック製包装容器の上面に、「おいしい 手造り/ソフトとうふ」、「佐野商店」の文字と共に、「πウォーター」の文字を表示して使用していたものです。確かに被請求人の意図としては、所定の浄水器を使用して得たπウォーターを使用したとうふの意味があったのかもしれません。しかし、需要者、取引者は、上記の豆腐を収納したプラスチック製包装容器を見て、必ず、πウォーターを使用したとうふの意味と捉えたであろうかと考えると多少の疑問は残ります。

いずれにせよ商標登録を受け、その登録を取り消されると支障が生ずるような場合には、類似範囲内での使用のみではなく、必ず登録商標と同一の範囲での使用をしておくことが肝要であると考えます。

2.取消2004-31334は、いわゆる不正使用取消審判に関する事件です。不正使用とされる要件は、商標権者が故意に類似範囲内で他人の商品等との関係で誤認混同を生じせしめる使用をしたことです。この審判では、通常、故意か否か、誤認混同が生じているか否かが主な争点になると考えられます。不正使用とされるのはあくまで類似範囲内での使用ですので、登録商標と同一の範囲内での使用には制裁はありません。例えば、著名商標、周知商標に便乗する目的で、これらの著名商標、周知商標とは非類似の範囲で商標登録を受け、登録を受けた商標の類似範囲内でこれら著名商標、周知商標との間で誤認混同を生じせしめるような使用をした場合がこれに該当します。

本件の場合は、20年間近くに亘って継続していたライセンス契約を打ち切りにされるなど感情的に複雑な経緯があるようで、上記のような不正使用の典型例とは多少事情が異なると考えます。商標権者は、いずれにせよ、このような不正使用をしないように心掛けなければなりません。

以 上